働き方改革やコロナ禍をきっかけに、在宅勤務を導入する企業が増えてきました。コロナ騒動の落ち着きとともに、オフィス出勤に戻す企業も出てきていますが、在宅勤務は一定数残ると見られます。
ただ、同じ会社の中でも在宅勤務ができる部門と、できない部門に分かれることもあるでしょう。その場合、一方から「ずるい」といった不満が出るケースも。
本記事ではこの点について、ずるいと言われてしまう理由や、在宅勤務のメリット・デメリット、課題、解決策などを考えていきます。
在宅勤務が「ずるい」と言われる理由
まずは、在宅勤務がずるいと言われる理由を見ていきましょう。
身支度や通勤の必要がなく、自由な時間が増えること
1つめは、身支度や通勤の必要がない分、在宅勤務では自由に使える時間が増えること。
出社している人からすると、趣味や睡眠に割く時間が多くなるのは羨ましいわけですね。プライベートも大事にしたい人だと、この感情はより大きくなるでしょう。
サボりやすいと思われる環境
2つめは、サボりやすいと思われる環境です。在宅勤務では周りの目が直接届かないという点から「あの人、家ではサボってるんじゃないか?」と感じる人もいるのです。
在宅勤務者の勤怠管理は企業の課題になりやすいのと同じく、出社している人の感情面も、また課題になりがちといえます。
不公平感
上記2点は、結局のところ「不公平感」につきます。出社していると味わえない恩恵が、この感情を生み出しているわけです。
ただ、在宅勤務にもメリットばかりではなく、デメリットもあります。次項からは、これらを見ていきましょう。
在宅勤務のメリット
在宅勤務のメリットは、主に以下の2点です。
①通勤が不要になる
毎朝、満員電車に押し込まれながら、片道1時間ほどかけて通勤……。ストレスがかかる人も多いでしょう。本を読もうにも、狭い空間で本を開きにくかったり、隣の人に手が当たったりして集中できません。
一方、在宅勤務なら会社に行く必要がなく、朝食をゆっくりとったり、少し長めに寝たりできます。朝の時間を有効活用でき、ストレスが減るのは魅力的です。
また、これにより勤務地の制限がなくなるのもポイント。企業からすると、遠方の優秀な人材を雇いやすくなります。
②育児や介護と兼業できる
育児や介護をしながら会社に通うのは、実際問題、難しいですよね。保育園や幼稚園、介護施設などを利用できればよいものの、そうもいかない方も多いはず。
在宅勤務であれば、育児や介護と並行して仕事を進められます。求人の中にはスキマ時間に取り組めるものもあり、自分のライフスタイルに合わせた働き方を選びやすいのです。
在宅勤務のデメリット
メリットと逆に、在宅勤務には主に2つのデメリットがあります。
①時間や気持ちのコントロールが難しい
自宅というプライベートな空間で仕事を行うため、気持ちが緩んでしまいがちです。前述の「サボっているんじゃないか」という疑心暗鬼は、こういう点から生まれます。
在宅勤務ではタスク管理をしっかりしないと、進捗がどんどん遅れていきます。はじめは難しいかもしれませんが、強制力を自分自身に持たせられるようにしなければなりません。
②コミュニケーションが不足しやすい
オフィスにいれば、タイミングを見つけて上司や同僚へ気軽に質問できます。何気ない雑談からアイデアが浮かぶことも少なくないですよね。
しかし、在宅勤務では相手の状況を把握しにくいため、お互いにコミュニケーションを控えてしまう傾向にあります。また、対面とは違いチャットでのやり取りが多い分、声のトーンや表情といった非言語情報が少なくなります。
すると認識の齟齬やムダな連絡が発生し、生産性が落ちる可能性が出てくるのです。
テキストで伝える訓練をしたり、Webミーティングを積極的に使ったりして、このリスクを解消しなければなりません。
在宅勤務で生産性は必ずしも上がらない
在宅勤務のメリットとしてよく挙がる「生産性を高められる」という点は、実際のところ、そうでもないのが分かってきました。
ロバート・ウォルターズ・ジャパン株式会社が実施した、在宅勤務での生産性についてのアンケート結果を以下に紹介します(*)。コロナ禍により在宅勤務になった日本在住の男性会社員501人への聞き取り調査です。
【これまでの通常勤務から在宅勤務になって、生産性に変化があったか?】
変化なし(50%)
生産性が落ちた(30%)
生産性が上がった(20%)
【生産性が落ちた要因は?】
1位:同僚・取引先とのコミュニケーションが取りづらい(63%)
2位:集中力の維持が難しい(45%)
3位:会社のシステム整備が不十分(44%)
【生産性が上がった要因は?】
1位:時間が柔軟に使える(75%)
2位:オフィスよりも仕事に集中しやすい(70%)
3位:リラックスして仕事ができる(55%)
アンケートからは、在宅勤務で生産性が上がったのは、全体のわずか20%というのが分かります。むしろ、生産性が落ちたと答える人の方が多いという結果でした。
生産性が落ちた要因は、コミュニケーション不足や集中力の低下など、デメリットのところで前述した内容と似ています。オフィスで働くのとは勝手が違うため、難しいと感じるのでしょう。
ただ、生産性が上がった要因は、時間の柔軟さやリラックスできるなど、落ちた要因の裏返しにもなっています。要は、働きやすい環境を構築できるかどうかにかかっているわけですね。
*:ロバート・ウォルターズ・ジャパン株式会社/在宅勤務の会社員、3割が生産性低下を実感
「在宅勤務=ずるい」は違う
ここまで見てきたとおり、在宅勤務にもメリットとデメリットがあり、出社するのとは違う難しさがあります。
ですので「在宅勤務=ずるい」というわけではありません。
そもそも、在宅勤務であっても期限以内に作業を終わらせなければなりませんし、業務量は変わらず、責任も出社と同等につきまといます。オフィスで働くより楽というのも正しくありません。
この問題を乗り越えるには、在宅勤務者とオフィスワーカーの双方がお互いの働く環境について理解を深め、不平不満・誤解を解消できるよう会社が導くことが重要になります。
「出社したい」という在宅勤務者もいる
在宅勤務をしている人の中には「出社したい」という意見も少なからずあります。
「あしたのチーム」が実施した調査によると、在宅勤務をやめたいと思ったことのある人の割合は、年代別で以下のとおりです。
割合が最も高かったのは20代。「よくあった」と「時々あった」を合わせると67.4%が、在宅勤務をやめたいと思ったことがあるといいます。最も低かった40代でも、全体の半数近くが一度は思っています。
その主な理由がこちらです。
・業務上の不便が多いから
・気軽に相談がしにくいから
・仕事が単調になりがちだから
・孤独だから
オフィス勤務では出にくい課題が、円滑な在宅勤務の妨げになっているのが分かりますね。
生産性の高い在宅勤務をするためのポイント
では、生産性の高い在宅勤務をするためのポイントをご紹介していきます。
毎日のスケジュールを細かく決める
まずは、毎日のスケジュールを細かく決めること。
その日の作業を確認し、時間の割り振りを明確にするのです。休憩時間も忘れずに作ってくださいね。そして、仕事の間は仕事、休憩の間は休憩、というようにメリハリを付けて働きましょう。
ダラダラしていると、時間はすぐに過ぎていきます。スケジュールに沿った行動をとるよう心がけてください。
会社や先方への報告をこまめにする
会社や先方への報告はこまめに行いましょう。
対面でないからこそ、細やかな報告が必要です。適宜報告し合うことでコミュニケーションが活発になり、より仕事がしやすくなります。
先ほどのアンケートでは、生産性が落ちたと感じる最大の要因がコミュニケーションの不足でしたよね。連絡するだけでなく、連絡してもらえる環境作りも大切です。
仕事環境を整える
次は、集中できる仕事環境を整えること。例えば……
・長時間座っても疲れにくいチェアを買う
・PCのディスプレイを2枚にしたり、1枚の大画面にする
・仕事場とくつろぐ場所を分ける
・仕事に必要なもの以外置かない
・生活音を避けるために音楽をかける
・目が疲れない照明に変える
・携帯電話のプライベート使用時間を決めておく
etc.
どんな環境が合っているかは人それぞれ。好みに応じて、こだわりのデスクスペースを作ってみてください。
適度に休む
適度に休むことも大切です。
集中して仕事をしたいからこそ、休憩を挟んでリフレッシュしましょう。ストレッチをしたり外の景色を見たりすれば気分も変わりますよね。
人間の集中力は、長くとも90分まで維持できるといわれています。これを目安にスケジュールを組むとよいでしょう。
「在宅勤務=ずるい」という誤解を解消するには
最後に、在宅勤務=ずるいという誤解を解消するための取り組み例を紹介します。
在宅勤務のルールを明確にする
まずは、在宅勤務のルールを明確にしましょう。
・勤務時間
・勤怠の報告
・業務内容の共有
・セキュリティ体制
・備品管理
・経費精算
・評価制度
etc.
在宅勤務者がどう働いているのか、出社している人にも分かるよう、具体的な規則を策定します。出社しても損にはならないのを理解してもらえれば、諸々の誤解はなくなっていくはずです。
定期的にアンケートをとる
働き方に関するアンケートを定期的にとり、在宅勤務とオフィスワークそれぞれで不平不満がないかチェックするのも大切です。改善点が見つかれば、解決方法を社内で議論します。
はじめから完璧な環境作りなど無理なので、段階的に改善していくのを意識しましょう。
まとめ
在宅勤務には、時間や精神的な余裕といったメリットがあるものの、コミュニケーションや集中力などに課題が残ります。在宅だからといって必ずしも生産性が上がるわけではなく、決して楽な働き方ではないのです。
「ずるい」という意見を解消するには、在宅勤務のルール整備と定期的なアンケートを実施しつつ、在宅勤務者とオフィス勤務者、双方がお互いの環境を理解し合うことです。円滑な事業運営のために、本記事が参考になれば幸いです。