ビジネスの現場でよく耳にする「見える化」。「見える化で業務改善」「経営には見える化が大切」といった使い方がされますが、具体的な意味を説明できない方も多いのではないでしょうか。
また、見える化と混同しやすい「可視化」との違いが曖昧になっている方もいるでしょう。
そこで本記事では、見える化の意味やメリット・デメリット、対策例などを具体的に解説します。
見える化とは
「見える化」とは、ビジネスにおいて必要な情報をリアルタイムに確認し、問題が発生したとき、すぐに解決策や再発防止策を打てるような仕組みを作ることです。業務の進行状況や目的に合わせて対象を選定し、見えないものを見える状態にすることを意味します。
「いつ・誰が・どこで・何をしているか」、業務プロセスがどのような流れで行われているかを数字や文字などで可視化すれば、問題や課題を早期に発見できます。
ただ、見える化とはあくまでも手段の一つであり、目的ではありません。「業務効率を改善したい」「無駄を省いてコスト削減したい」など、さまざま取り組みを実現するための手法として活用されています。
見える化の発祥│誰が言い出した?
「見える化」は新しく生まれた言葉のように感じますが、実は従来から活用されてきたものです。
起源は1998年に現トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)の岡本渉が発表した「生産保全活動の実態の見える化」という論文です。トヨタの製造現場で問題点を顕在化させることを目的とした「目で見る管理」が見える化の原点となっています。
生産現場での業務改善活動において見える化の効果は大きく、ビジネス現場全般に浸透していきました。現在は業界問わずさまざまな企業で導入されています。
見える化と可視化の違い
見える化と混同される言葉に可視化があります。どちらも「本来見えていなかったものを見えるようにする」という意味では同じです。
この二つの言葉は併用されるケースも多々ありますが、実は重要な点で違いがあります。
《可視化と見える化の違い》
可視化 | 顧客満足度や従業員のスキルなど見えにくいものを数字やグラフを用いて見やすい状態にすること。 |
見える化 | 可視化した結果を常に共有し問題や課題に対する改善・再発防止への取り組みが繰り返し継続的に行われていく状態。 |
可視化は「見たいものを必要なときに見る」ことで、研究分野でもよく使用される言葉です。一方、見える化は自分の意思とは関係なく「いつでも見える状態」を表し、企業活動で多く活用されています。
見える化のメリット
見える化の代表的なメリットを3つ紹介します。
業務効率アップ
1つ目のメリットは、業務効率がアップすることです。
見える化に取り組むと、今まで見えなかった無駄や問題・課題を発見しやすくなります。それらの問題点を改善することで、工数の削減や生産性の向上が期待できます。
また、見える化によって組織全体で業務フローが明確になると、やるべきことが具体化され、共通の認識を持てることもメリットです。「誰が何をやっているのか」「何をやるべきか」といったタスクが明確化しますから、業務効率向上につながります。
業務内容の標準化
2つ目のメリットは業務内容の標準化です。本来組織に属する業務は、どの社員が業務を担当しても、一定の成果が得られるような体制作り=標準化が理想です。
しかし、日本の企業は組織が拡大するほど縦割り組織となり、属人化が進んでいます。属人化した業務があると特定の社員に依存することになり、納期遅れやサービス品質の低下につながります。
見える化を導入すれば業務フローを適切に把握できることから、属人化している業務にいち早く気づき、改善が可能です。また、業務を可視化することは、SOP(標準作業手順書)やマニュアル作りにも役立ち、業務内容の標準化に効果的です。
人材育成の効率化
3つ目のメリットは人材育成の効率化です。前述したように、見える化による業務の可視化は、マニュアル作りに最適です。
新人や異動してきたばかりの社員は、不明瞭な業務フローに対応できず、先輩社員に聞いたり資料を探したりと実際に業務へ着手するまでタイムラグが発生します。また、既存社員は新人教育に時間を割かなければなりません。
しかし、わかりやすいマニュアルやルールが明確になっていれば、曖昧な部分がなくなり業務スピードも向上するでしょう。誰が行っても同じフローで成果が上がるようになれば、教育に関するコスト削減につながり、退職・離職で業務が滞るというリスクも軽減できます。
見える化のデメリット
業務効率化や標準化に大きな効果をもたらす見える化ですが、必ずしも良い面だけではありません。ここからは見える化のデメリットを2つ紹介しますので、導入前によく確認しておきましょう。
監視されている意識が現場に生まれる可能性
見える化の1つ目のデメリットは、監視されている意識が現場に生まれる可能性があることです。
見える化はこれまで見えなかった部分が見えるようになることから、その目的が社員に十分伝わっていなければ「監視されている」「信用されていない」という意識が生まれてしまうことも。このことが影響し、自由な発想や意見が出しづらくなることがデメリットです。
また、見える化により新たに設定されたルールやマニュアルが働きづらいと感じる社員もいるでしょう。このように現場の柔軟性が失われ臨機応変な対応力がなくなると、生産性を落としてしまう恐れもあります。
これでは本末転倒になりますから、マニュアルやルールにとらわれず日頃から意見を出しやすい環境に整えておくことが大切です。また、ある程度裁量を持たせ社員の自主性に任せることも、創造性や信頼感の向上につながります。
見える情報が多すぎて処理しきれない可能性
2つ目のデメリットは、情報が多すぎて処理しきれない可能性があることです。
見える化によってこれまで見えなかった部分が露呈することで、処理しなければならない問題や課題に多く気づきます。とはいえ、一度に処理できる能力や人的リソースは限られていますから、何から手をつけたら良いのかわからない状態に陥ることもあるでしょう。
また、情報が多すぎて重要な情報が埋もれてしまう恐れもあります。これではせっかく可視化してもうまく活用できず、見える化のメリットを得られません。
見える情報が多すぎる場合は、全て手をつけようとせず情報を精査して優先順位をつけることが大切です。
トヨタにおける見える化の対策例
前述したように、見える化はトヨタの生産方式で使われている生産管理手法が起源となっています。
トヨタにおける見える化の代表的な対策例は、「アンドン式」「カンバン式」の2つです。それぞれ詳しく見ていきましょう。
アンドン式
「アンドン式」とはトヨタの生産ラインに設置された「アンドン」と呼ばれる通知ランプを活用した方法です。
生産ラインで異常が発生した際や対応が必要な場合、ランプの点灯で何かが起こっていることを知らせます。異常の種類に合わせてランプの色を変えることで、作業員は瞬時にどのようなエラーかの判断が可能です。これが「見える化」の原点になります。
カンバン式
「カンバン式」とは、トヨタ自動車の生産現場で考案された部品の発注(供給)方式です。カンバン式の「カンバン」という日本語は、「SUKIYAKI」と同様に世界共通語となっており、生産管理の現場では「KANBAN」で意味が通じるほど浸透しています。
カンバン式では、生産過程において必要な部品や数量を書いた札(カンバン)を確認し、カンバン通りに生産することで、無駄のないジャスト・イン・タイム生産を実現できるというものです。
ちなみにジャスト・イン・タイムとは、必要なものを、必要なときに、必要なぶんだけ供給することをいいます。最近では製造業だけではなく、物流企業やEC通販などさまざまな業種で採用されています。
見える化導入のポイント
最後に、見える化導入のポイントを解説します。
見える化する情報を吟味する
まずは企業活動において、具体的にどんなことを見える化するべきか吟味しておきましょう。業務プロセスや生産性の変動、勤怠状況など、見える化する事項を決定します。
この際、何から手をつければ良いのか迷う場合は、可視化されていない情報を洗い出し選定していくのもおすすめです。
都合の悪い情報こそ見える化する
次に、都合の悪い情報こそ見える化するのもポイントです。見える化が機能していない企業の多くは、自分にとって都合の悪い情報を見える化していない傾向にあります。
一般的にポジティブな情報は自然に表へでてくるもので、わざわざ見える化する必要がないことも多いです。一方で、ネガティブな情報は「見せたくない」という思いが強く、ブラックボックス化することも少なくありません。
本来は、このような情報こそ見える化するべきなのです。特に属人化されていて担当社員しか見られないような情報は早急に可視化し、共有する必要があります。
情報の判断基準はシンプルにまとめる
見える化では、情報の判断基準はシンプルにまとめることも重要です。
例えば信号機の3色のように、誰が見ても同じ認識ができるようわかりやすい共通の判断基準を設けましょう。一般的に日本人は「赤=危険」「黄=注意」「青=安全」といったイメージがありますから、この基準に合わせるのも大切です。
もし「赤=安全、青=危険」という基準にすれば、脳が混乱しミスが頻発するはずです。場合によっては命に関わるミスにつながることもありますから、判断基準はシンプルかつ簡潔にまとめましょう。
見える化を遅らせてはならない
見える化を実現するには、さまざまな工程が発生しますから先送りにしている企業も多いでしょう。しかし、見える化を遅らせてはなりません。
前述したように、組織の業務が属人化により特定の社員しか見えない状態は、ミスに気づくまで時間がかかります。知らないうちに不正が横行することも考えられますから、注意しなければなりません。
また、見える化は近年推進されているテレワークにも最適な対策です。見える化を導入すれば、出社しないことで「勤務実態が把握できない」といった悩みを解消できます。現在、勤怠状況や進行しているタスク管理が弊害となりテレワークを実行できない企業の課題解決に効果的です。
まとめ
本記事では、見える化の意味やメリット・デメリット、対策例などを解説しました。見える化は、業務改善をはかるための手法です。現在まだ導入できていない方は、できるだけ早く取り組むことを推奨します。
見えない部分が見えるようになると、これまで気づかなかった問題や課題を発見し、解決することができます。見える化により企業活動の「ムリ・ムラ・ムダ」を省けば、コスト削減や業務効率向上に効果的です。
とはいえ、見える化を導入するには手間や時間がかかりますよね。このことが理由で着手できていない企業も多いでしょう。また、中にはメイン業務が忙しく途中で諦めてしまった方もいるのではないでしょうか。
このような方は、「バックオフィスの生産性向上をはかる方法」で効率的に見える化することも可能です。コア業務に影響を与えることなく、手間や時間をかけずに見える化を実現できます。