労働人口の減少や働き方改革の推進など、企業を取り巻く環境が目まぐるしく変化している昨今。既存の組織構成や業務プロセスでは、対応に限界が見えるケースが出てくるようになりました。
こうした現状を打開する手段の一つとして「BPR(業務改革)」が注目されています。本記事では、BPRについて意味や業務改善との違い、メリット・デメリット、成功事例などを解説します。
目次
BPR(業務改革)とは?
BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)とは、既存の業務プロセスを抜本的に見直し、再構築する手法です。日本語では「業務改革」といい、企業や行政機関、非営利団体などといった組織において用いられています。
具体的には、業務の流れや組織の仕組み、情報システムなどが見直しの対象です。BPRを実施することで組織の体制を効率的に改善でき、「利益の最大化」「顧客満足度アップ」といった業務目標を達成しやすくなります。
BPRの目的
BPRの目的は多岐にわたりますが、中でも重視したい目的は以下の4点です。
業務効率化による生産性やサービスの質の向上
業務プロセスの再設計により、既存業務のムリ・ムダ・ムラを省き、業務効率化を実現するのが目的です。それに伴い、業務の生産性や商品・サービスの質の向上を図ります。
商品やサービスは、組織の存在意義に直結します。それらの生産性や質を向上させることは、BPRにおける最も重要なタスクのひとつです。
業務効率化によるコストの削減
組織を維持するためには、資金や資産が不可欠です。そのためBPRにおいても、業務効率化に伴うコスト削減は非常に重要な達成目標です。
具体的には、人件費や材料費、保管費、システム保守・管理費などの固定費が対象となります。
顧客と従業員の満足度向上
不完全なビジネスプロセスは、顧客や従業員からの要望が反映されづらく、顧客の満足度のみならず、従業員の仕事に対する充足感も喪失させかねません。不満点の改善ポイントを業務プロセスに組み込むことで、顧客と従業員の満足度向上を目指します。
リスクマネジメントへの対応
組織の損失を最低限に抑えるためには、損失を発生させる原因を事前に把握し、未然に防ぐことが重要です。そのため、全体の業務を把握し、リスクマネジメント体制を構築する必要があります。
BPR実施にあたってのポイント
BPRを実施するにあたり、特に気を付けたいポイントをご紹介します。BPRを成功させるために、ぜひ意識して取り組んでみてください。
根本的な改善を目指す
組織の目的や達成目標が何かを再認識し、組織の根本を見つめなおすことで、既存の体制が最適化されているかの判断材料となります。組織の根本そのものにブレが生じているのであれば、組織の在り方を見直すことが必要です。
抜本的に見直す
根本的な見直しに加えて、既存のビジネスプロセスが本当に必要なのか、最適な方法なのかを抜本的に見直し、ゼロベースで再構築することも大切です。抜本とは「抜く」という文字の通り、今あるものを根こそぎ退ける可能性も秘めており、それがBPRを難しくしている要因とも言えます。
劇的に変える
BPRは部分的・短期的に行う業務改善とは異なり、ビジネスプロセスを劇的に変えなければなりません。そのため、時間も工数も膨大なものになりますが、その効果は組織にとても大きな影響を与えます。
プロセスに組み込む
BPRはその瞬間だけ実施すれば良いものではなく、いかに最善のプロセスをキープできるかがその後の鍵となります。そのためには、新しいビジネスプロセスを日常業務に組み込み、継続的に改善していくことが重要です。
BPRが注目される背景
BPRが初めて提唱されたのは、1990年代にまで遡ります。そのころの日本はバブル崩壊直後であり、苦しい状況下にあった日本では、BPRによって立て直しを図る企業が続出しました。
それから30年以上の時がたった近年、BPRは再注目されるようになりました。その背景にあるのは、少子高齢化の進行による生産年齢人口の減少です。生産年齢人口が減るということは、働き手ありきだったこれまでのビジネスモデルは通用しなくなり、業績が縮小していくことを意味しています。
それを危惧した国は、2019年から「働き方改革連法」を施行し、時間外労働の見直しやDX普及など、国全体として働き方を変えようという動きが活発になりました。その時流の中、BPRによって組織の継続を図ろうとする動きは、自然な流れだと言えるでしょう。
BPRと業務改善、DXの違い
BPRと混同されがちな言葉として、業務改善とDXが上げられます。ここでは、BPRとそれらの違いについて解説します。
BPRと業務改善の違い
BPRと業務改善の違いは、対象となる範囲です。BPRはビジネスプロセスを根本から見直し、再設計することに焦点を当てます。
一方で業務改善は、既存のプロセスの小さな改善に焦点を当てるのが特徴です。また、かかる工数や時間、コストなどを比較すると、BPRの方が大きくなる傾向にあります。
業務改善については以下の記事で詳しくご紹介していますので併せてご覧ください。
BPRとDXの違い
BPRとDXは、まったくの別物というわけではありません。前述したとおり、BPRはビジネスプロセスそのものの再設計を行うことで、ビジネスプロセスの再構築を図る手法です。
一方DXは、デジタル技術を活用してビジネスプロセスの改善を図る手法です。そのため、BPRのプロセスのひとつにDXが含まれているという考え方になります。
BPRのメリット
BPRを取り入れる主なメリットは、次の3点です。
業務全体を把握でき生産性が向上する
BPRにより、無駄なビジネスプロセスを排除することができます。その結果、業務フローが最適化され、生産性の向上が期待できます。さらに無駄がなくなることで、コスト削減も可能です。
経営判断のスピードが向上する
BPRを実施することで、組織のビジネスプロセス全体を把握できるようになります。そのため、経営判断や意思決定の阻害要因が特定され、経営判断までのフローが最適化されます。
さらに、状況や現状の課題は常に共有されるため、すでに知り得ている情報をもとに素早い経営判断を下すことも可能となるのです。
リスクマネジメントに役立つ
効率化されたビジネスプロセスは、リスクが特定しやすくなり管理が簡便になります。そのため、将来起こりうるリスクの想定や、リスク発生時の損害を最小限に抑えるなど、リスクマネジメント強化に貢献します。
BPRのデメリット
メリットがある一方で、BPRにもデメリットが存在します。BPRの主なデメリットは、以下の3点です。
BPRの取り入れ自体が難しい
BPR最大のデメリットは、知識や手法を学ぶ場が少ないために、取り入れるまでの障壁が非常に高いことです。これにより、BPRのメリットが多いことは分かっていても、実行に移せない企業は多いと思われます。
そのため、全てを自分たちだけで完結させるのではなく、多少コストがかかったとしても専門家などへの相談や依頼を検討すると良いでしょう。
工数や時間・費用(コスト)がかかる
BPRの実施期間は、1年以上かかるケースも珍しくありません。即効性を求める組織では、BPRのような長期的な取り組みを持続できない可能性があるでしょう。
さらに期間が長くなるほど、人件費などのコストは増加していきます。また、新しいITシステムや設備の導入にも、多額の費用が必要です。
そのため、事前準備として資金の確保はもちろん、BPRに必要なリソースや既存業務を維持するための対策などを、事前に組織全体で共有しておくことがポイントとなります。
経営層と従業員の間に摩擦や軋轢が生じる恐れがある
BPRは既存業務と並行作業であることがほとんどであるため、業務への支障が生じる場合があります。また、そもそもBPRの理解が不十分なことで、従業員の協力が得られない可能性が考えられます。
そうならないために、組織が持つビジョンや目標を明確にし、BPRがどのような役割を果たすのか、従業員にとってのメリットは何かなどを、組織全体に浸透させることが大切です。
BPRを進めるための5つのステップ
BPRの進め方を5つのステップに分けて解説します。
ステップ1.検討
まず初めに、組織がなぜBPRを実施するのか、何を目標としているのかをしっかりと検討する必要があります。BPRはその性質上、一度始めると途中で中止することができないため、この第1ステップは非常に重要です。
目標を設定するにあたり、様々な立場の人からヒアリングを行いましょう。一方向からの視点では気づかない問題点を洗い出し、組織改革における最重要ポイントを見定めます。
また、この段階で対象業務の範囲の設定も行うのがポイントです。基本的にBPRの対象範囲は組織全体となりますが、具体的な業務範囲を設定しフローを用いて優先順位をつけることで、効率的に改革を進めることができます。
ステップ2.分析
ステップ2では、ステップ1で見つかった課題の原因を分析していきます。この作業で使用される代表的な手法には、売上げ貢献度順に分析する「ABC手法」や財務以外の観点でも評価を行う「BSC手法」などがあります。
ステップ3.設計
ステップ3では、組織改革の方針や課題解決方法をビジネスプロセスに組み込むための設計を行います。
ビジネスプロセスの単純化・標準化、不要なプロセスの排除、使用するツールや設備、外部委託の導入などを同時に検討するフェーズです。設計内容を変更することは極力避けたいため、ここでしっかりと作り込みましょう。
ステップ4.実施
設計が完成したら、実際の作業に移ります。BPRの管理者やリーダーを中心に、設計通りに業務が進んでいるかを確認しながら慎重に進めましょう。
特に初めて導入したシステムや設備の使用、外注した場合などは、想定外の事態も起こりやすいので注視する必要があります。
ステップ5.モニタリング・評価
BPRの実施以降は、その経過をモニタリングします。計画通りにビジネスプロセスが機能しているか、課題が解決しているかなどを、定性的・定量的にチェックしていきます。
取り組みの中で新たな課題が出てきたときは、その都度ステップ1から繰り返し、さらなる組織改革を進めましょう。
BPRを進めるための6つの手法
BPRを効率よく進めるためには、主に6つの手法が使われます。1つずつ解説していきます。
ERP
ERPとは、Enterprise Resource Planningの略で、日本語では「統合基幹業務システム」、「基幹システム」などと呼ばれます。企業を支える経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報など)をひとまとめに管理し、効率的に活用する考え方・システムのことです。
これまでバラバラだった組織のシステムを統一・一元管理できるため、作業の自動化やヒューマンエラーの防止に繋がります。
シックスシグマ
シックスシグマとは、品質管理や経営改善のための手法のひとつです。ビジネスプロセスの分析に用いることができ、前述した「ステップ2.分析」で活用することができます。製品やサービスの品質を統一することで、顧客満足度アップに貢献します。
シェアードサービス
シェアードサービスとは、複数の事業部がある組織において、共通している業務を一か所にまとめる企業改革のことです。業務を統一することで、業務効率の改善が期待できます。
RPA
PRAとは、Robotic Process Automationの略で、AIなどのデジタル技術を活用して、これまで人が行っていた業務を代行する仕組みです。単純作業の自動化などが可能で、業務効率アップを図ることができます。
BPO
BPOとは、Business Process Outsourcingの略で、ビジネスプロセスの一部を外部に委託することです。コア業務に集中できる他、人件費のコストダウンや業務品質向上が見込めるなど、費用対効果の大きい手法のひとつです。
SCM
SCMとは、Supply Chain Managementの略で、原材料の調達から消費者の手に渡るまでの全体の流れを最適化する管理手法です。組織の内外問わず、製造に関わる全ての組織にリアルタイムで情報を共有し、ビジネスプロセスの効率化と利益の最大化に貢献します。
BPRの成功事例
製造業A社
バブル崩壊後の不況を脱却するために、BPRの実行を決めた製造業A社。①ボトムアップの改善だけでは業績を伸ばせなくなってきたこと、②間接部門へのテコ入れがなされていないことという、2つの課題を抱えていました。
2つの課題を解決するため、同社はシックスシグマを導入します。100万回の試行におけるエラー発生回数を3~4に抑えられるよう、業務を改善していく手法です。トップダウンで改革を進めることができ、直接部門にも間接部門にも使える点が導入の決め手でした。
まずトップ層がシックスシグマを学習し、その上で社員にも教育。全社を挙げて、さまざまな業務が抱えるムダを排除しました。
その結果、年間数千億円のコスト削減効果を得られたほか、効率化によって発生した余剰人材をほかの仕事に活用できるようになりました。
H銀行
2000年ごろから20年以上にわたってH銀行が行ったBPR事例は1000件を超え、現在でも年間100件ほどのビジネスプロセスの改善が行われています。
特に力を入れたのがペーパーレス化です。支店ごとに金庫の大部分を占めていた紙資料は、整理と処分、デジタル化を進めたことにより、オフィスは完全ペーパーレス化を達成しています。
さらに、紙の処分に関する業務はBPO(外部委託)することで、職員のリソースが確保され、残業時間の大幅な削減も実現することができました。
千葉県松戸市
千葉県松戸市では、財源不足をきっかけにBPRが導入されました。
まずは業務を棚卸しし、それぞれをSWOT分析にかけました。その結果見えた課題については、取り組みの実施計画予算に紐付け。事業の廃止や縮小によって生じた余剰リソースは他事業へ割り当てました。
これらの結果、事業の方向性や目標、優先度などを整理でき、事業と予算の整合性も付けやすくなったのです。民間企業だけでなく行政もBPRに取り組んでいることを示す事例といえます。
静岡県
静岡県では、日々の公務における多忙さを改善するためにBPRが導入されました。
部署ごとにBPRを実施し、課員によるワークショップによって、課内の現状把握とその原因を洗い出しました。それだけではなく、課題解決の優先順位やあるべき姿も共有することで、最終的なゴールを全員が把握できるようになったのです。
その結果、前例踏襲で理由なく続けられていた業務は排除され、単純作業はマニュアル化とRPAの導入により、職員に求められるリソースを減らすことに成功しました。
BPRの取り組みは継続されており、個人の意見を出す機会を積極的に作ることで、日々業務の改善に取り組んでいます。
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まとめ
本記事ではBPRについて、意味やメリット、成功事例、進め方などを解説しました。ビジネスプロセスを再構築するという性質上、BPR実行時には現場で混乱が生じたり、効果がすぐ出なかったりといった事態が考えられます。
BPRの成功のためには、導入の目的や目標、施策などを末端まで共有した上で、試行とブラッシュアップを繰り返すことが肝要です。また、自社だけで完結することが難しいと感じた場合は、専門家や有識者へ協力を求めることを検討すると良いでしょう。