残業時間の上限は月間・年間で何時間?労働基準法や36協定を交えながら解説

「残業時間って上限があるらしいけど何時間だろう」「労働基準法の決まりってどんなものがあるのかな」このように思っている方は少なくないと思います。

昨今、ブラック企業や労働時間に関する決まりが厳しくなったので、規定に違反してしまうと罰則を受けることになってしまうかもしれません。

特に残業時間の規定については2019年に改正がされたので、しっかりと理解しておく必要があります。

そこで今回は、残業時間の上限や規定について説明します。

そもそも残業の定義はどんなの?

残業時間の定義を理解する際には、労働基準法第32条について知る必要があります。

労働基準法第32条
1. 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
2. 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。

上記の規定を見ればわかる通り、労働時間が1週間で40時間、1日で8時間を超えると「残業」ということになります。

残業時間には上限がある!~法定労働時間と36協定~

残業時間には上限があります。法定労働時間と36協定について触れながら、残業時間の上限について説明します。

法定労働時間とは?

法定労働時間とは、休憩時間以外の労働時間のことを指します。1日で8時間、1週間で40時間を超えてはならないと法律で定められている労働時間のことです。

ただし、以下の①~④に該当していて、常時10人未満の労働者から構成される場合に限り、1日に8時間、1週間に44時間までの労働が可能です。

①物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業
②映画の映写、演劇その他興行の事業(映画製作の事業を除く)
③病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業
④旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業

36協定とは?

上記の法定労働時間を超えて働かせた場合、刑事罰が適用されることになります。ただし、「36協定」と呼ばれる労使協定を結び、労働基準監督署に届け出ることにより、法定労働時間を超過しても罪に問われなくなるというしくみがあります。

労働基準法第36条に記載されていることから「36協定」と呼ばれており、使用者と労働者の代表、もしくは労働組合の間で締結されます。

36協定を結ぶことで、法定労働時間を超えて、月間45時間、年間360時間までの残業が可能になります。

特別条項付き協定とは?

次に「特別条項付き協定」について説明します。

36協定が適用されると、月に45時間、年間で360時間までの残業が許可されますが、さらにこの上限を超える場合に締結されるのが「特別条項付き協定」です。使用者が36協定に特別条項を付け加えて締結することにより、さらに上限時間を超えて働かせることができます。ただし、臨時的例外的な事情がなければ、月間45時間、年間360時間を超えてはいけません。

2019年に労働基準法が改正され、残業時間の上限がより厳密に

2019年以前の特別条項では、上限時間が法律に明記されておらず、拘束力の弱いものだったため、違反する企業が後を絶ちませんでした。

そのため、2019年に特別条項付き協定は以下のように改正がされました。

・通常の36協定は、1か月で45時間、1年間で360時間を残業時間の限度とすることが法律に明記された。

・さらに特別条項付き協定の上限も以下のように明記された。
時間外労働は年間で720時間以内
時間外労働と休日労働の合計は月間で100時間未満
時間外労働と休日労働の合計は2~6ヵ月の平均で80時間以内
時間外労働が月45時間を超えられるのは年間6ヵ月まで

このように法律に残業時間の上限が明記されたことにより、より拘束力の強いものになりました。また、上司が残業時間を把握することも義務化されたため、「部下が勝手に残業した」という言い訳も通用しません。むしろ上司は、部下が業務時間を超過しないように監督する必要があります。

また、これらの規定に違反すると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が課されます。罰則があることで違反企業が減ることが期待されます。

なお、改正後の協定は大企業が2019年4月1日から、中小企業が2020年4月1日から適用されています。

【2021年】結局、残業時間の上限は何時間?

「結局のところ上限は何時間なの?」と思っている方に向けて、まとめをします。残業時間の上限は以下のようになります。

・通常の36協定の場合・・・月に45時間、年に360時間
・特別条項付き協定の場合・・・年間720時間以内、月間100時間未満、2~6ヵ月の平均80時間以内

これらの規定に違反した場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が課されます。法改正によって、残業時間の上限についての取り締まりは以前より厳しくなりました。違反して罰を受けることがないように気を付けましょう。

月残業80~100時間は過労死ライン

法改正がされたことにより、特別条項の残業時間の上限も「月間100時間未満」「2~6ヵ月の平均80時間以内」と法律に明記されました。

法律に残業時間の上限が明記されることは、上限超過の抑制にも繋がり、一見良いことのように思えます。しかし実際のところ、この「月間100時間未満」「2~6ヵ月の平均80時間以内」というのは「過労死ライン」と一致します。

過労死ラインとは、病気や自殺のリスクが高まる労働時間のことであり、「発症前1ヵ月間に100時間」もしくは「発症前2~6ヵ月間に平均80時間」を超えて残業をすると、労働と発症との関係性が認定できます。

つまり、残業時間の上限ギリギリまで働いてしまうと、過労死ラインまで働くことになってしまい、健康へのリスクも高まってしまうのです。

過度な労働による病気を防ぐためには、以下のような対策をすることをおすすめします。

・労働者にしっかりと睡眠をとることを促す
・勤務間インターバル制度を導入する
例)残業で夜12時まで仕事をしていた場合、しっかり休息がとれるように次の日の出勤時間を朝11時に設定する
・労働者のストレスチェックを行い、職場環境の改善に繋げる
・労働者に不調が生じた際に医師に繋ぎやすい環境をつくる

上記のように対策をすることで過労死を防ぐだけでなく、仕事の効率アップや人間関係の改善などの良い効果ももたらします。しっかりと対策をして、働きやすい環境をつくりましょう。

まとめ

今回は残業時間の上限について、法制度を中心に解説してきました。

特別条項付き協定での残業時間の上限は「月間100時間未満」「2~6ヵ月の平均80時間以内」ですが、これは「過労死ライン」と一致します。従業員の健康を守るために、決められた上限を超えないように気を付けましょう。

過度な労働による過労死や病気を防ぐためには、睡眠促進などの対策をすることが大切です。しっかりと対策をして、従業員が働きやすい環境をつくりましょう。