「働き方改革」の一環として政府が提唱したペーパーレス化。紙の使用を減らすことで、業務効率改善やコスト削減、環境保護などさまざまなメリットを得られます。テレワークの普及もあって、導入する企業が増えてきました。
とはいえ、ペーパーレス化をしようにも具体的にどうすれば良いのか、メリットだけでなくデメリットや問題点を知りたいという方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、ペーパーレス化の概要と必要性、メリット・デメリット、やり方、具体事例などを詳しく解説していきます。
目次
ペーパーレス化とは?
ペーパーレス化とは、紙の書類を電子化する取り組みを指します。
紙をなくすこと自体は手段であり、目的ではありません。ペーパーレス化の目的は、業務効率の向上、コスト削減、環境保護、そして多様な働き方の実現などです。
冒頭でもお話しした通り、働き方改革の一環として国もペーパーレス化を推進しています。「e-文書法」や「電子帳簿保存法」により、これまで紙での保存が義務付けられていた書類の電子保存が認められるようになりました。紙で保管する場所も手間も費用も必要なくなったのです。
また、ペーパーレス化を推進することで、積極的に環境保全へ取り組んでいるとアピールでき、企業価値向上にもつながります。
なぜペーパーレス化が必要なのか
次に、ペーパーレス化の必要性を、ビジネスと環境保全の観点から解説します。
ビジネス上の必要性
膨大な量の文書をペーパーレス化することで、業務効率化や経費削減、オフィスの省スペース化など会社にとって多くのメリットをもたらします。
データをクラウド上に保存すれば、出社しなくとも書類を閲覧・編集できるため、テレワークのような新しい働き方にも対応できます。
環境保全上の必要性
原料が木材である紙を大量に作ると、森林減少や多量の二酸化炭素排出につながります。環境保全が叫ばれる昨今、なるべく紙の生産を抑えるためにペーパーレス化は重宝されているのです。
ペーパーレス化のメリット
文書の管理や検索が容易になる
1つめのメリットは、文書の管理や検索が容易になること。
紙文書だと破れたり劣化したりするため、長期の管理が難しい場合があります。また、閲覧の際には保管場所へ向かい、膨大なファイルの中から人の手を使って探さなければなりません。きちんと整理できていればまだ良いのですが、そうでないと「あの書類が見当たらない」といった問題が生じます。
「この書類の場所は〇〇さんじゃないとわからない」と属人化されている状態もしばしば見られ、これにより業務効率が落ちてしまうケースもあるでしょう。
一方、電子データならこのような問題は起きません。データの破損はそう簡単には起きませんし、必要なデータを検索機能ですぐに見つけ出せます。
紙代や印刷代を削減できる
紙代や印刷代の削減も、ペーパーレス化の大きなメリットです。
紙の書類には意外にも多くの経費がかかります。紙やインクの費用はもちろん、印刷機器のリース料やメンテナンス料、保管のためのファイル代やキャビネット代、これらのファイリングやコピーに携わる人件費などです。
ペーパーレスだと上記の費用の大半がかかりません。たしかに初期費用は必要ですが、トータルのランニングコストを大幅に減らせるのです。
書類の保管スペースが必要なくなる
請求書や契約書などは、法律により一定期間の保存が義務付けられています。全て紙で保存するとなると、一部屋分のスペースが必要になるでしょう。
一方、ペーパーレス化することで、PC一台あれば全てのデータを保存でき、簡単に閲覧できます。
情報共有がしやすくなる
電子化された文書だと、情報共有しやすくなるのも利点です。
紙の場合は、直接会って渡すか郵送しなければなりません。複数人と共有する場合はコピーの手間もかかりますよね。
一方、電子データならクラウドで共有したりメールに添付したりして、労力をかけることなくやりとりが可能です。複数人への配布も一瞬で完了しますし、テレワークにも最適です。
また最近は、顧客へのカタログ送付も電子ファイルで行う企業が増加し、営業効率も上がっているといわれています。
このように、ペーパーレス化は社内外問わず情報共有に適しているのです。
紛失や劣化のリスクを減らせる
ペーパーレス化は、重要資料の紛失や劣化によるリスクを減らし、災害や火災・テロなどからデータを守るBCP(事業継続計画)対策にも有効です。
紙文書での保管は、紛失や火災・水害のリスクが大きく、経年劣化で読めなくなることも少なくありません。重要資料を喪失すれば、事業資産の損害につながります。特に中小企業は経営基盤が脆弱なため、顧客リストや契約書といった重要書類の紛失が決定的なダメージになることも。
ペーパーレス化にはその心配がありません。バックアップを取っておけば、万が一パソコンが故障したとしても重要書類を保護できます。
ペーパーレス化のデメリット・注意点
導入にコストがかかる
ペーパーレス化のデメリットのひとつは、導入にコストがかかることです。
導入初期には、ペーパーレス化のためのツールや電子資料を読むための端末、データを保管するストレージといったものの費用を要します。さらに、端末の使い方やデータの運用・保管方法を社員に教育するコストも必要です。
もちろん長期的に見れば、ランニングコストを抑えられるメリットの方が大きいものの、初期費用がかかるのは念頭に置いておきましょう。
ペーパーレス化に対応していない取引先もある
紙ベースでの契約を希望する取引先は、まだまだ少なくないのが現状です。「請求書や契約書は紙書類でお願いします」「ペーパーレスには対応していません」このように言われることも多々あるでしょう。
政府が推進しているとはいえ、まだまだ多くの企業で足並みが揃っていません。これがペーパーレス化が普及しない大きな理由にもなっています。
法律でペーパーレス化が認められない書類がある
法改正により、現在はほとんどの書類の電子化が認められています。しかし、ごく一部の書類はペーパーレス化が認められていません。
代表的な書類は下記のようなものです。
- 不動産取引における媒介契約書、重要事項説明書
- 定期宅建賃貸借契約書
- 任意後見契約書
ただし、これらについても政府が法改正を検討中です。そう遠くないうちに電子データでのやりとりが可能になるとみられます。
ペーパーレス化の現状
ペーパーロジック社の調査によると、2021年に社内のペーパーレス化を推進した企業は全体の72.3%。一切行っていない企業は4.8%となっており、そのうちの28.6%が、2022年度にペーパーレス化のための予算配分を検討していると回答しました。
これらのデータから、多くの企業が文書電子化を進めていることが分かります。企業間取引を円滑にするためにも、ペーパーレス化の流れに乗ることは重要だといえますね。
*:ペーパーロジック/「ペーパーレス化に伴う2022年度予算」に関する調査
取り組みやすい書類からペーパーレス化しよう
いきなり全ての書類をペーパーレス化するのは、費用面・教育面を考慮すると難しいですよね。
そのため、一気に電子化を進めるのではなく、ペーパーレス化のハードルが低いものに対象を絞り、段階的に導入していくことをおすすめします。例えば、会議資料や社内文書などから進めるとよいでしょう。
ペーパーレス化の方法
ペーパーレス化は、次のような方法で進められます。
1.ペーパーレス化の目的を明確にする(業務効率化やコスト削減など)
2.対象を決める(進めやすい部分から手をつける)
3.業務フロー策定(既存の業務フローを導入したシステムにうまく整合させる)
4.実行(部分的にペーパーレス化を実行する)
5.評価と改善(実践で見えた課題・問題点を整理し改善)
まずは、目的と対象を明確にし、その後ペーパーレス化システムを既存の業務フローに組み込み、実行・改善を行うという手順です。この手順を繰り返しながら、段階的に導入してみましょう。
ペーパーレス化の方法については、下の記事にて詳しく解説しています。ぜひ、こちらもお読みください。
【関連記事】
ペーパーレス化の方法とは?手順や注意点などを解説
ペーパーレス化を進めるポイント
経営陣や管理職が積極的に行う
ペーパーレス化のような改革は、経営陣や管理職の主導で導入していくことが大切です。決定権を持つ立場の人間がやらなければ、社内へ浸透しません。
今までのやり方から新しいものへ変えることに戸惑い、難色を示す社員もいるでしょう。しかし、経営陣が推進していることなら意識も変わるはずです。
まずは、ペーパーレス化でどのようなメリットが得られるかを社内書類で試し、役員会議などで体感してみてください。
ペーパーレス化した書類の閲覧ルールも考えておく
文書データの閲覧ルールも考えておかなければ、ペーパーレス化の意味をなさないことがあります。
例えば、社内会議で使う書類を電子化したとしても、個々の従業員が書類を印刷してしまうと消費する紙の量は変わりません。また、煩雑な画面遷移が必要になる形式で保存すると、かえって業務効率が落ちてしまうでしょう。
こうした失敗を防ぐために、あらかじめ統一された規定を定めておきましょう。
ペーパーレス化の事例
ここからは、ペーパーレス化に成功した事例を紹介します。
青森県弘前市役所
青森県弘前市役所では、以前から紙の使用量の削減が課題でした。特に、多くの紙が使用される幹部会議では、資料作りに毎回3時間かかり事務局職員へ大きな負担がかかっていたのです。
そこで課題解決のため、まずは幹部会議をペーパーレス化することに。平成27年度にペーパーレス会議システムを検討し、翌度にはタブレット端末で使えるグループコミュニケーションアプリ「MetaMoJi Share for Business」を導入しました。
このサービスを採用した理由は、職員が普段からタブレットに絵やメモを書ける「MetaMoJi Note」を使っており、これに会議機能と資料共有機能が付加されたMetaMoJi Shareなら導入しやすかったからです。
MetaMoJi Shareを使うようになってから、月に2回の幹部会議はペーパーレスで行われています。翌年には会議資料の紙、約14,000枚、紙代やトナー代約142,000円の削減に成功。資料準備に伴う工数の減少により人的負担も軽減されています。
弘前市役所では今後、Wi-Fiと有線LANが混在する庁舎内全体でWi-Fiを整備し、どこにいてもMetaMoJi Shareを活用した会議ができるよう計画していきたいとのことです。
社内向け会議はペーパーレス化しやすい分野です。ぜひ参考にしてみてください。
参照:MetaMoJi Share/導入事例 青森県弘前市役所
株式会社良品計画
無印良品でおなじみの株式会社良品計画では、社員の残業が当たり前で、1日のほとんどを社内で過ごすという状態。家族との時間や製品作りのための見聞を広げる時間も取れず、余裕のない日々でした。
この課題を解決すべく実施したのが、業務のマニュアル化と残業削減への取り組みです。以前はマニュアルがなく、全て社員の経験やスキルに頼っていたため、異動や退職で社員がいなくなるたびに業務の再構築が必要でした。
そこで本部業務のマニュアルと店舗の販売マニュアル2種を紙で作成。現行のマニュアルより良いアイデアや逆に問題があれば、本部にパソコンを通じて提案できるようになっています。この本部とのやりとりは、ほとんどペーパーレスです。本部から現場への指示、現場社員から本部への連絡へもメールを使っています。
この結果、社員の残業時間削減に成功。業務効率化とワークライフバランス推進の効果が得られ、課題解決に至っています。
紙と電子データを併用した事例です。業務の全てをペーパーレス化する必要はなく、部分的な導入でも効果は出ています。
参照:総務省/業務のマニュアル化・ノー残業に関する取組事例(株式会社良品計画)
まとめ
本記事ではペーパーレス化について、必要性とメリット・デメリット、成功事例、導入にあたってのポイントなどを解説しました。
紙の使用量を減らすと、業務効率向上・コスト削減・環境保護など、さまざまなメリットが得られます。予期せぬ災害や火事に見舞われても、資産となるデータは安全です。
テレワークの普及により必要性が増しているペーパーレス化。導入初期には多少のコストがかかりますが、業務の一部から徐々に進めることで大きなリスクにはならないはずです。まずは電子化のハードルが低い書類から検討してみてはいかがでしょうか。