「人件費」とは、会社が算出する経費のうち、従業員にかける費用のことです。具体的には、給与や賞与、社会保険料などが人件費として計上されます。
正社員の他にも、アルバイトや派遣社員などにも支払わなければならず、その総額は従業員に支給する給与の1.5〜2倍程度になるとも言われています。高額になることが予想されるので、安定した経営を保つためには、人件費を適切な額に設定することが重要です。
そこで本記事では、人件費の基礎知識、人件費に含まれるもの、人件費の算出方法、業種ごとの適切な人件費について紹介します。
人件費とは?
人件費とは、会社が算出する経費のうち、従業員にかける費用全般のことを意味します。従業員に支払う給与の他にも、退職金、社会保険料、通勤定期代などが人件費に含まれます。
また、正社員、役員、アルバイトなどの雇用形態によって、発生する経費を人件費とするか、しないかが異なります。
人件費の分類とそれぞれに含まれるもの
一口に「人件費」といっても、その内訳は様々です。人件費は「現物給与総額」と「現物給与以外」に分けられ、給与や退職金などの人件費はどちらかに分類されます。ここでは人件費の分類、それぞれの分類に含まれる費用について解説します。
①現物給与総額
「現物給与総額」とは、月々の給与と、年に数回支払われる賞与を足した金額のこと。「所定内賃金」「所定外賃金」「賞与・一時金」の3つから構成されているので、1つずつ解説していきます。
所定内賃金
「所定内賃金」は、企業と従業員間の労働契約で決められた、所定労働時間内の毎月の基本給を指します。所定労働時間とは、企業ごとに決めた従業員の労働時間のことです。労働基準法では、法定労働時間が「1日8時間」かつ「週40時間」と定められており、所定労働時間はこの時間内に抑える必要があります。
労働基準法の中で「所定内賃金」について定義されていないため、明確な金額などは決められていません。「1日8時間」かつ「週40時間」までの所定労働時間の対価として、企業が算出して支払うことになります。
所定外賃金
「所定外賃金」とは、残業・休日出勤などの所定労働時間外の労働に対して支払われる賃金のことです。
ただ、所定労働時間外と法定労働時間外の残業の違いについて注意する必要があります。所定労働時間外かつ法定労働時間内の場合は、残業代をどの程度増やすのか、もしくは通常賃金と変えないのかを企業側で決められます。
一方、「1日8時間」かつ「週40時間」の法定労働時間を超えた残業の場合、残業代をどの程度割り増すのか、法律で決められているのです。
賞与・一時金
賞与・一時金とは、毎月の給与とは別で年間2・3回ほど支給される賃金のこと。日本では、夏季・冬季に賞与を支給する企業が多いです。
賞与について「基本給の〇ヶ月分」と明記している企業の場合、毎月の基本給が昇給するとその分賞与の金額も増えることになります。
②現物給与以外
現物給与以外の人件費は、給与として受け取れる範囲外の費用を表します。「法定福利費」「福利厚生費」「退職金」そしてその他の費用から構成されるので、1つずつ解説します。
法定福利費
「法定福利費」とは、健康保険や厚生年金保険などの社会保険料と、労災保険や雇用保険などの労働保険料に対して、企業側が負担する費用のこと。
法律に基づき、どの程度の保険料を企業側が負担するのかが定められています。
福利厚生費
福利厚生費とは、冠婚葬祭などの福利厚生のための任意の費用のこと。慶事・弔辞の見舞金、健康診断にかかる費用、社員旅行費などです。ただ、福利厚生費として計上するためには、以下の条件を満たす必要があります。
・会社役員、一般社員などの雇用形態に関わらず、全従業員が支給対象であること
・常識的に考えて、認められる金額であること
・現物支給以外であること
退職金
「退職金」とは、「従業員のこれまでの労働に対する慰労金や対価」のことです。
退職金の支給方法は、一括で支給される「退職一時金」と、年金と同じ仕組みの「退職年金」の2つです。企業側が定めた「入社〇年以上」「自己都合の場合は減額」などの条件を考慮した上で、従業員が退職するたびに退職金を支給する必要があります。
その他
人材を採用するためにかかった費用や教育研修費なども、人件費として計上できる場合があります。従業員にかかった費用=人件費として解釈した場合、これらの費用も人件費として考えられます。
役職や雇用形態によって人件費とするかが異なる
どのような役職や雇用形態であるかによって、人件費として計上できるかが異なります。ここでは、それぞれの雇用形態ごとに、どの費用を人件費として計上できるか解説します。
正社員
正社員に支払われる給与や福利厚生費などは、当然人件費として計上できます。また、賞与・退職金などの一時的な費用も人件費です。
役員
役員とは、会社経営をする立場の人のことです。労働者の立場にある人が結んでいる労働契約ではなく、委任契約を結んでいる場合、役員報酬などの費用は人件費として計上できません。
ただ、「兼務役員」として、役員と並行して営業などの業務に従事している場合の報酬は、人件費として計上できます。
契約社員・アルバイト・パート
契約社員・アルバイト・パートの立場にある人も、正社員と同様に企業と労働契約を結んでいるため、支給される給与は人件費として計上できます。
労働時間が短い、賞与がないなど、正社員と比べると労働契約の内容に違いはあるものの、通常と同様の人件費として考えてください。
派遣社員・業務請負
派遣社員や業務請負の形態で企業と関わっている場合、自社雇用ではないことから、人件費として管理できないと思われる方もいるでしょう。
しかし一時的ではなく、常勤として他の社員と同様に企業で働いているのであれば、人件費として計上可能です。
人件費率と労働分配率の計算方法
現在の人件費が企業にとって妥当かどうか判断するための指標として、「人件費率」と「労働分配率」が挙げられます。ここでは、それぞれの指標の概要、計算方法、目安を解説します。
人件費率の計算方法と適正値の目安
人件費率は、売上に対して人件費がどの程度占めているのかを示す割合です。次の式で計算できます。
人件費率(%)=人件費÷売上×100
例えば、売上が300万円で人件費が60万円の場合、人件費率は20%です。この人件費率の比重があまりにも大きいと、経営が圧迫されてしまいます。
しかし人件費を極端に削ってしまうと、従業員に負担がいき、辞職されてしまう可能性があります。そのため、適切な比率で人件費率を保つ必要があるのです。
各業種の人件費率の平均値は次の通りです。これらの値を参考に、自社の人件費率を決めていきましょう。
小売業 | 10%~30% |
ホテル業 | 30%前後 |
サービス業 | 40%~60% |
飲食業 | 30%~40% |
卸売業 | 5%~20% |
参照:TKC(https://www.tkc.jp/tkcnf/bast/sample/)
労働分配率の計算方法と適正値の目安
「労働分配率」は、「付加価値額」のうちの「人件費」の割合のこと。
付加価値額とは、商品を販売して得た利益のことです。例えば、600円で仕入れた商品を1,000円で売った場合、400円が付加価値額です。また、労働分配率は次の式で計算します。
労働分配率(%)=(人件費÷付加価値額)×100
労働分配率が高すぎると、人件費の比重が大きいと判断でき、経営が圧迫されかねません。
とはいえ、人件費を下げて労働分配率の割合を無理やり下げたとしても、従業員のモチベーションが低下してしまう懸念があります。
各業種の労働分配率の適正値は次の通りです。参考にして、自社の労働分配率を考えましょう。
建設業 | 45~65% |
卸売業 | 45~55% |
小売業 | 35~65% |
サービス業 | 55~67% |
飲食業 | 40~60% |
参照:TKC(https://www.tkc.jp/)
人件費は高すぎても低すぎてもいけない
ここまで読んでもらった方なら理解していただけたと思いますが、人件費は高すぎても低すぎてもいけません。人件費を削りすぎてしまうと、従業員のモチベーション低下に繋がり、離職者が続出する可能性があります。
しかし、人件費に費用を割きすぎても、経営が圧迫されることになります。先ほど紹介した人件費率と労働分配率を算出し、適切な人件費を決めることが重要です。
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まとめ
今回は、人件費の基礎知識、人件費に含まれるもの、人件費の算出方法、業種ごとの適切な人件費などについて解説しました。
人件費には、給与や社会保険料、退職金など様々なものが含まれています。ほとんどの従業員に必ず割くべき費用なので、適切な人件費を設定しないと、経営が圧迫されかねません。
業種ごとに人件費率、労働分配率を算出し、適切な人件費を見極めてください。